永遠の初心者マーク~春の陣~

長女が大学生になってすぐ運転免許を取った。客観的に見て運転が向いているとは思えないが、将来運転しなければならない機会は訪れるだろうと思い、取らせることにした。

しかしながら、本人は消極的だ。次女ほどではないが乗り物酔いをするので、もともと車が好きではない。私は彼女に言った。将来、アメリカ・カナダ・オーストラリアなどの外国に行って運転免許がないなんて生活できないし、そもそも運転免許証がなくて海外赴任に選ばれないこともあるかもしれないよ、と。

「国際関係」の仕事に就きたい彼女はこれには心が動いたようで首を縦に振った。「AT車限定?」と聞かれたので、私は「マニュアルでしょ」と答えた。彼女の友人たちは高校卒業後の春休みに免許を取得している子も多く、知り合いはほぼ全員「AT限定」らしい。彼女に「マニュアル車なんていつ乗るの?」と聞かれた。確かに今はタクシーもAT車だ。私は自分が大学時代に学祭で荷物の搬入搬出のため、家庭教師先の生徒のおじいちゃんから軽トラを借りて重宝した話をした。「軽トラなんて乗らないし、必要だとしても他の人に運転してもらう」と彼女は言った。確かに。彼女が運転しなくても良いかも。でも、途上国に赴任することになったら、日本の古いマニュアル車を運転する機会も軽トラを運転しないといけないこともあるかもしれないと言ったら、「そうか。。。」と納得し、マニュアルを取ることになった。どうやら「外国」を持ち出せば説得できるらしい。

そして無事運転免許証を取って、そのあとすぐに独り暮らしをし、気付けば大学1年生の終わりになっていた。ペーパードライバーである。これではいかんと、桜の季節にドライブに行くことになった。下道でも高速を使っても行けるようなコースで、住宅街・国道・山道も通るなかなかのコースだ。助手席に夫、後部座席に私。次女は「絶対に行かない」と来なかった。

家から数百メートルでもう酔いそうだった。大丈夫な気がしない。前後左右、状況に応じて常にチェックするのが運転なのだが、目が6つあっても足りている気がしないという運転だ。右折ラインに入るときは、線に沿って入ろうとするし、縁石やガードレールとの距離感もいつ車体をこするのかとハラハラしっぱなしだ。縁石に突っ込んでいくのではないかとストップもかけた。車が走っていない田舎道で良かった。狭い道で対向車が来たときは常に車を停止させ、対向車に先に行ってもらった。右手にどれほど感じのいい店があっても入ろうだなんて思ってはいけない。AT車でこの運転だ。マニュアルをどう運転していたのか謎である。

一番の問題は駐車だった。駐車場の一番奥の空いているところを選び、私が外に出て誘導するのだが「真っ直ぐ」の感覚が分からないらしく、真っ直ぐに入らない。どんなにやり直してもダメなので、枠に入っていれば合格ということにした。駐車をする度に、バックで入れると時間がかかるので、だだっ広い駐車場で「このまま真っ直ぐ前から車を突っ込んで停めて」と夫が言った。「真っ直ぐってどういうこと?」と聞く娘。「前の二本線の間に“前に倣え”をする感じで入れて」と私は言った。何歳児と会話しているのだろうか。(真っ直ぐが分からない子なのだ。詳しくは「こちら」)

家を朝9時に出て、宿に17時ごろケガも事故もなく無事に着いた。一泊することにして良かったと心底思った。これから帰るなんて無茶だ。車に乗っているだけでこんなにぐったりしたのは生まれて初めてだ。1日目は天気も良く桜がちょうど満開で、川沿い、線路沿いどこの桜も本当にきれいだった。目に映る風景と彼女の運転が比例しない、そんなドライブだった。

翌日も観光しながらドライブをするのだが、やはり一番の問題は「駐車」だった。何度も何度もやり直すので、駐車場の歩行者や入ってくる別の車を待たせることも多々あり、小雨が降る中頭を下げて、なんとか駐車させた。親二人がかりで駐車させている様子をライダーのおじさま方は暖かく見守ってくれて、やっと入れたときには拍手をしてくれた。なかなか優しい国だ。帰りは高速も利用して、一通り「親子自動車教習」は終了した。

本人は満足気で「やっぱりたまに運転しないとね」という。「そうだね」と私はこたえたが、私だけで長女の車には乗りたくない。目は最低6つ必要だ。これを長女にあと3年、次女も入れたら計7年もやるかと思うとぐったりする。いや、そもそも次女に運転免許はいらないのではないか、とさえ思えてくる。技術の進歩、自動運転の進展を強く願う。