永遠の初心者マーク~秋の陣~

春の陣から半年が経とうとするころ、長女から連絡があり友人たちとドライブ旅行を計画しているという。他の2人は実家暮らしで日ごろから運転をしているので問題ないが、自分は不安なので運転の練習をしたいという。練習するのは構わない。大学生の子供がすることにアレコレ口を出す気はないが、人様の子の命を乗せて、娘が運転することには同意できない。とは言うものの、頭ごなしにアレコレ言っても仕方がないので、一先ず練習することにした。本人も自分の度量が分かれば、「運転する」とは言わない・言えないだろうし、友人たちも「練習はしたけれども、慣れないのは独り暮らしだし仕方がない」と諦めてくれるだろう。仕事と授業の都合上、日帰りで親子自動車教習を決行することにした。

当日私が後から車に行くと、夫が何度も「ブレーキ」と「アクセル」の確認をさせている。重要だ。次にギアの「R」は何か尋ねる。いいぞ、さすが夫。だが、答えは返ってこない。とても不安だ。まだ出発もしていないのに、この調子である。そして家から数百メートルの駅前の交差点で夫が「真っ直ぐ行って」と言うと、例のあの言葉が返ってきた。「真っ直ぐってどっち?」。勘弁してくれ。私だけ駅前で降ろして欲しくなった。

今回はすぐに高速に乗るコースだったので、高速の乗り降りとインターチェンジくらいで、ウィンカーのタイミングとか車間距離とか注意点がないわけではないが、道も混んでおらずわりと順調だった。それでも、30分くらいですぐに休憩がしたくなるし、ものすごく肩が凝る。ただ、乗っているだけなのに、自分で3時間くらい運転しているような疲労感に襲われる。

途中で持参したお弁当を食べ、紅葉も良い感じになっていて、なかなかの天気だ。ようやく生きた心地がした。一般道に出て、右手にいいお店があっても見て見ぬふりをし、左手のおもしろそうな店は帰りには寄れない(右折になるから)ので、前回の経験から「気になったときに」行くことにした。

それにしても、前回も思ったのだが、助手席にいる夫のナビがいまいちだ。ただでさえ方向感覚がよろしくない娘にとても不親切でわかりにくい案内をするのだ。曲がる場所も余裕を持って、「次の信号を過ぎたら、赤と黄色の看板を左に曲がって」と分かりやすく言えばいいのに、「こそあど言葉」を使う。左右前後すらままならない子に、「あそこ」で通じるわけがない。そうすると、「普段からこの人は言葉が足りなすぎるのよね」と関係ないことにまで夫に対して腹が立ってくる。いかん、いかん。目的はドライブである。

前回課題だった駐車は徐々に良くなってきた。少なくとも真っ直ぐ停められるようになってきた。有名な吊り橋のある観光地の駐車場では、わざわざ係のおじいさんが娘の駐車の誘導をしてくださり、頭の上で手を大きく〇にして、「満点だよ」と褒めてくださった。前回同様、誰もクラクションを鳴らさないし、嫌な顔もしない。初心者マークに優しい人たちばかりだ。

地元の市場とか道の駅とかに立ち寄る度に、「ご当地スイーツ」に舌鼓し、娘はすっかりドライブを楽しんでいる。一緒に住んでいないので、ついつい甘くなって「食べる?」と聞いてしまう。楽しい寄り道をして駐車場を出る。「右に行って」と夫が言うと、「右ってどっち?」という例の言葉が返ってくる。私たちは諦めた。「あの赤い車と同じ方向に行って」と車の色や特徴を言うことにした。私たちはいつ前後左右を教え忘れたのだろう。

吊り橋も、美しい海に浮かぶ鳥居も、市場もどれも満喫し、地元の美味しい海の幸と野菜たちと一緒に帰宅する時間となった。何で日帰りなのだ。何故無理してでも宿を取らなかったのかと思うくらい、ぐったりだった。高速の近くまで来ているから、一般道はほとんどないのだが、これから帰るなんて。自分が運転するわけでもないのに、100倍疲れる。

渋滞も表示されていたが思ったほどではなく、予定通りに家に着くことができた。おなかは空いていたが、眠いし、疲れた。座っていただけなのだが、サッカーの試合(40分)を3本やった時より疲れている。風呂に入って早く眠りたい。でも、さっき市場で買った新鮮な魚介があり、夫は市場で迷いに迷って買った3匹の特大穴子を炭火で焼くのを楽しみにしているし、娘は自宅では食べられない殻付きの牡蠣と穴子などが食卓に並ぶのを待っている。みんな若い。

最後の体力を振り絞り、風呂から上がって、料理し、盛り付け、娘は「これ食べたら帰る」と言いながら、なかなか帰らない。穴子も一匹は食べるし、牡蠣や他のものも次々と平らげ、買って来た野菜やフルーツを山分けし、食べるものを食べて、もらうものをもらって、満足気に家に帰った。これから電車に揺られるなんて。さすが大学生。若い。

春の陣の前に、子供たちのことも良く知るサッカー仲間の男性に、長女と一緒にドライブをする話をしたらとても羨ましがっていた。私は夫に「〇〇さん羨ましいって言っていたけれども、乗ってみたらわかるよね」と言った。夫は「そうだね。でも、LINEは未読スルーするくせに、こうやって自分が言うことに“はい”“はい”と返事をしてくるのは気持ちいい」と言う。確かにバレー部時代の「部活返事」をしている。

もうアイスクリームくらいでは一緒に買い物すら行かない年頃が何年も続いている。長女の人生の半分、夫は単身赴任だ。夫にとってはたまに会う娘との貴重なコミュニケーションドライブなのかもしれない。

娘たちのドライブ旅行は晴天で楽しく、友達のおかげで運転しなかったらしい(というより、させてもらえなかった)。持つべきものは賢明・聡明な友達である。そして娘からお決まりの「もっと練習しないとね」とのメッセージが届いた。仕方がない、娘と夫のコミュニケーションドライブ、私は第5.6の目を提供し続けるしかない。でももう日帰りは嫌だ。

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