母の味
3月末に友人が遊びに来てくれた時のことである。その頃、エントリーシートをしこたま作成していた長女はご飯に飢えると、定期的に実家に帰ってきていた。
友人が泊りに来るので、自宅に帰らせたのだが、鍵を忘れている。連絡したら、近くのスタバにいるので取りに帰って来た。まぁせっかくのご馳走だから、食べてから帰ったら?と誘った。
友人の配偶者は私たちと同じ大学の先輩で、娘が二人いる。子供たちの年齢も近く、互いの子供たちのことは生まれた頃から知っているし、ベビー時代はお泊りをしたり、大きくなってからは家族でBBQをしたり、、、と家族ぐるみで仲良くさせてもらっていた。
長女が最後にYたちと会ったのは中3のGWごろだったので、7年ぶりの再会。友人Yから質問攻めにあいながら、パクパクと料理を食べる長女。そのYが長女に聞いた。
「お母さんの作る料理で一番好きなものは?」
長女は少しだけ考えたが、あまり迷った様子もなく「卵焼き」と答えた。
その日は友達を招いているので、当然気合を入れて料理を何種類も作った。ローストビーフ・燻製類・刺身の昆布じめなどなど。パンも焼いた。確かに気合を入れて何品も作っているが、割と普段から時々食卓に並ぶメニューばかりではある。その料理をパクパクと食べながら、「卵焼き」と言われて、私は少し複雑な気持ちだった。確かに、「卵料理が一番難しい」とプロが言うくらいなのだが、そういう話ではないからなぁ。
さらにYが「どうして卵焼きなの?」と聞くと、長女は「自分で作っても母の味にはならないので。母の卵焼きは出汁がきいて、ふわっとして美味しく、自分では作れない」と答えた。
そう言うことか。と、私はちょっと嬉しくなった。卵焼きなんて、一緒に住んでいた頃、週に4.5回は食べるような一品であった。日によって入れる具材や味付けは変えることはあるが、基本は似たようなものを作る。ただ確かに作る人の「味」が出るおかずである。化学調味料はもちろん入れず、しっかりとした出汁に桜エビ・青じそ・ひじきを入れて作る卵焼き。
そう言えば、昔自分が同じ質問をされたときに「かぼちゃの煮物」と答えた。自分が作ると甘さ控えめにするので、母の方は味がしっかりとしていて甘い。
もしかしたら、人は案外「食卓の名脇役」が好きなのかも。毎日のように同じ「主役」だと飽きてしまうけれども、そばにいてくれると安心する「名脇役」も大切なのだろう。
何はともあれ、長女にとってきちんと「母の味」があるようで安心した。
