銀座の筍の物語

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銀座の筍の物語

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Photo by Aleksandar Pasaric on Pexels.com

たけのこの季節になるとたまに思い出すことがある。父とのたけのこの思い出だ。父とたけのこと言えば、去年書いた「たけのこ物語」が先ず来るのだが、別の父との思い出話。

就職して数年目、私がまだ独身の頃。独り暮らしの私が、どうして父と丸の内・銀座界隈で飲むことになったのか覚えていないのだが、仕事帰りに父の行きつけの丸の内の店で待ち合わせをした。

場所は八重洲地下の一画だ。店内に入ると、ダークスーツの「おじさん」しかいない日本酒専門店。若い女の子はおろか女性がそもそもいない。店に入ると嬉しそうに父が手を低く挙げた。おじさんばかりでも、自分の父親は直ぐにわかる。不思議だ。

父は私に何も聞かずに、自分と同じ升酒を頼んでくれた。20代男子もいないのでは?と言うような空間だったので、ジロジロと見られたのを覚えている。が、気にする性格ではないので、父が注文してくれた升酒を楽しんだ。

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Photo by Kassandre Pedro on Pexels.com

こういう父がいる家庭で育てられていると、こういう娘に育つのかもしれないが、24-5歳の女性が気軽に入る感じの店ではなかったので、私はワクワクした。父のオーダーセンスも良く、お酒もつまみも美味しい。価格がとてつもなく高い店なわけではないが、「おじさん」と一緒でないと楽しめなさそうな店だった。

今でこそ「日本酒ブーム」はある(あった)が、私が学生・社会人になったばかりの頃、日本酒やウィスキーを飲む女性は少なかったように思う。ワインブームも来ていなかったのでは。多分、バブル崩壊後のカクテルブームの名残がまだあって、○○サワーに移行していた頃だ。「この父の好みを掌握した母」に育てられていたので、お酒と料理の趣向はだいたい父と同じであり、私とカクテルブームは無縁だった。甘いお酒は飲まない。「淡麗辛口純米酒」が基本好きだ(濃厚でも良い)。その日の父との飲みは楽しかった。

大学から独り暮らしをし、帰省する度に父は「美味しいお酒(日本酒)」を用意して待っていてくれていた。電車で日帰りできる場所なのに、年に1.2回しか帰らず、社会人になってから帰省するのは年に1回くらいだった。

次に行った店は、銀座の小径にある、5.6人入ればいっぱいになってしまう、小さいお店で美人女将がいた。既にバブルは崩壊しているのに銀座で店を続けているなんて、、、と当時そのように思ったかどうかは不明w 父は常連らしく、名前で呼ばれていて、いわゆるメニューのないお店で、父が女将?ママ?のおススメとお酒を注文した。

そこで出てきたのが焼いたたけのこだった。それに合う日本酒と一緒に。24.5年前のことなので、味は覚えていないのだが、薄暗いL字型のカウンターと、美しく盛られた香ばしいたけのこと、日本酒は記憶にある。そして、漠然と思ったのだ。

「将来こういうお店を持ちたいな」と。

そして、こういう洒落た店を知っている父を「かっこいいな」と思った。母が子育てをし、家庭を守っていたから、”こういう”父がいることを十二分に知っているので、母に申し訳ない気持ちになったのも覚えている。でも、戦後片親で育ち、奨学金で大学に通って社会人になり、こういう粋な店を知っている父を純粋にかっこいいと思ったのだった。

そのお店の後、有楽町の駅の近くの昔ながらの中華屋さんでラーメンと餃子とビールを二人で食べた。今日は私が「きちんと稼いできちんと生活しているよ!」という意味で、ご馳走しようと思っていたのに、結局父が会計してくれたから、ここのお代だけは私が強引に支払った。

父は始終嬉しそうだった。1軒目も2軒目も知り合いに合うと「2番目の娘です」と、驚くほど嬉しそうに私を紹介した。

自分が親になって、あの時の父の気持ちが少しわかるようになった気がする。もう何年も会っていない。連絡も取っていない。父はこの「銀座の筍物語」を覚えているのだろうか。

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27件のコメント

  1. 親父さんカッコいい。
    そんな親父になりたい
    けど無理かな^_^?

    1. パッチングワーカーさんの投稿で、思い出して書きました。

      本当にありがとうございます!!!

    2. パッチングワーカーさんは既に、お嬢さんにとって「かっこいいお父さん」だと思いますが、社会人同士で仕事帰りに待ち合わせてお酒を飲むのは特別でした。なので、お嬢さんの仕事のペースが出来上がったら、どこかで待ち合わせをしたらとても楽しいと思います!!

      1. 娘が二十歳になった気に、六本木の小田嶋で食事をしたのを思い出しました。
        和食をワインに合わせる店なのですが、まだ全然お酒の味がわからずでした。
        今はそれなりに飲みますよ^_^
        家内が倒れてからは家族の結束は強いんです。
        妻が倒れて狼狽える情けない父親でしたからね。

      2. 素敵なお店で、20歳のお祝い!!
        夢や目標がしっかりとある素敵なお嬢さんに育っていらっしゃって、嬉しい限りですね♪
        (うちの長女も内定が出始めて、これで就職浪人はなくなったので、安心しました。かなりニッチな業界で、心配したのですが、希望業界に行けるのでホッとしました。まだ選考途中の企業があるので、5月中は活動は続けるようです。)

  2. しんみりいいお話。ああ、うん、きっとCoccoCanさんのお父さんってこんな感じなんだろうなって思いました。

    私は日本酒を飲まないので日本ではおじさんばかりのお店に行ったことがありませんが、あの国ではオシャレな女子がちらほらいるお店より、地元のおじさんばっかりの小さなpubの方がいろんな意味で好きです。お酒もやっぱりそういうところの方が美味しいんですよね。見た目より味で勝負、みたいな。

    1. いやぁー、おじさんの集まる店は美味しいですよね。万国共通して笑 あと、地元の人に愛されているお店も。
      お洒落なお店も行きますが、立ち飲み屋とかも好きですw

      かなり育ちの良い女友達が多いのですが、ディープな立ち飲み屋に連れて行くと喜びます☆

  3. 素敵な思い出ですね(^-^)
    その素敵なお父様はまだご存命とのこと。新しい思い出をこれからもまだまだ増やせるということですね。是非、増やしていただきたいと切に思います。

    1. 家族って難しいな、と思いますが、きちんと楽しかったり嬉しかったりする思い出を思い出すことが出来ているのが救いです苦笑

      新たに、、、そんな日がくればいいのですが。ありがとうございます!!

  4. こんばんは
    お父様と銀座で飲んだ思い出
    いいお話ですね、中々そのような経験が出来る父と娘は居ないかもね
    お父様も嬉しかったようですね^^

    1. お互い会社勤めの社会人の時に、終業後に待ち合わせて飲みに行くという機会は、もう一生訪れないので、今思うととても貴重な機会でした!!

  5. 超カッコいいお父様ですね。
    女性が日本酒の専門店に入りづらい時代に‘‘日本酒通’’のお父様と一緒なら安心して飲めますね。
    焼き筍を食べた事がないですが日本酒と合いそうです。
    先日、立ち飲み屋で暖簾の下に綺麗な女性の脚が見えて時代が変わったな~と思いました(*^_^*)

    1. 「綺麗な女性の足」に笑ってしまいましたw
      私の女友達は、自分ではディープな立ち飲み屋は入れないけれども、私とは普段いかないところに行けるので、楽しいと言ってくれます。父の教育?のおかげでしょうかw

      wakasahs15thさんも是非お嬢さんと出かけてください。父が嬉しそうだったのが強く残っていて、きっとwakasahs15thさんのお嬢さんも同じことを思うような気がします♪

      1. はい、トライして見ますが中々、付いて来てくれないです(*^_^*)

      2. そう思うと、「何故父と飲みに行くことになったのか」という理由(きっかけ)が大事ということですよね。全く思い出せず、役に立ちませんね、私w

  6. (‘-’*)オハヨ♪ございます。
    父娘で飲み屋さんで時を過ごされた良い思い出なんですね。何で銀座筍って思ったのですがこんな素敵な経緯があったとは!
    私には二人の娘がいるのですが(CoccoCanさんと同世代だと思います)どちらもお酒は飲まないので一緒に一杯はないですよ(笑)
    茹でたタケノコですが味噌をつけて焼いて食べた事あります。結構いけます(^▽^)/

    1. そうですよね。確かに。お嬢さんたち(息子であったとしても)が飲まなかったら、この話はなかったということですね笑

      うちは母が飲まないので、母とこういう思い出はありませんので!!

      たけのこに味噌をつけて焼くのは久しくやっていないので、やってみますね♪美味しそう☆

  7. 私はオシャレなお店は苦手なんですよね。この間も友達から飲みに行く誘いがあって”ココに行ってみたい”とリンクの貼られていたお店が小洒落すぎてたので却下しました(笑)

    でも立ち飲み屋ってそういえば行ったことないですね。たくさん歩くのは平気ですが立ったまま飲むのって気だるそうと思ってしまうのですが平気ですか?

    1. 立ち飲み屋、面白いですよ。スターターというか。
      コロナで軒並み減ってしまったのですが、東京は「ハッピーアワー」という制度が結構あって、19時までビール・サワー・ハイボール300円みたいなw
      18時・18:30に待ち合わせて、駆け付け一杯というw(実際は何倍も飲む)
      その後に予約してある少しおしゃれなお店に行くパターンがコロナ前のルーティンでした笑
      焼き鳥屋・おでん屋・居酒屋など料理もぬかりなく美味しいです。
      立ち飲みの焼き鳥屋さんで、常連さんらしき人がボジョレーヌーボーを開けて、みんなにごちそうしてくれたこともありました笑 
      独身の頃は銀座にお気に入りの立ち飲みのショットバーにも行っていました。(今思い出した!)
      30分~60分、楽しむ感じですかね☆

      1. なるほど、そういう楽しみ方ですね。焼き鳥・おでん….いいですね、美味しいのが食べたいな。

        今思ったのですが、平日仕事帰りに人と待ちあわせする時、私の方が仕事が早く終わるのでちょっと時間をつぶさないといけない、という時に1杯ひっかけてもいいかもしれません。

      2. そうです、そんな感じです。待ち合わせの前に!的な。私は外でアルコール以外の飲み物には、あまりお金を使わない人なので笑

        余談ですが、年末にハッピーアワー価格でビールをたらふく飲んだら、○○区の提携店でPaypay使うと30%offポイント還元という期間だったらしく、二人で4200円の会計で1200円くらい戻ってきたことがありましたw 立ち飲み屋です笑

  8. CoccoCanさんのお父様、きっとダンディな素敵な方なんでしょうね~!!

    そういえば、私も成人した時、父親の行きつけのクラブに連れていかれ、カクテルか何かを飲んだのを思い出しました。その時はまだお酒が得意じゃなかったから、あまり楽しくなかったかな(^-^;

    1. 20歳で行きつけのクラブでカクテル!! というのも、いきなり「超上級者編」ですね笑
      お父様連れて行きたかったのでしょうね、娘をwww
      ダンディでも素敵でもなく、ただの昭和の人ですが、論理的で知識が豊富なのは尊敬していました!

      1. 娘が尊敬できる父親って、やはりCoccoCanさんのお父様は素敵な方ですね(*^^)v

      2. いえいえ、the昭和ですよw

  9. 同じくです。1時間以上の外出の時は必ずお茶を持って出かけます。

    今は立ち飲み屋でもそんなキャンペーンやってるんですね。未だに外食は100%現金で払っています。早く切り替えないとですよね。(ようやくスーパーはキャッシュレスにしました)

    1. キャンペーン期間はチェックするようにしています笑
      意外とバカにならないのでw
      私は水分を多く摂る人なので、かならず水筒持参です!!

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